
人形の瞳、グラスアイの魅力:ビスクドールと共に歩む物語
人形の魂とも言える瞳は、「グラスアイ」と呼ばれるガラス製の目です。「球体関節人形」や「ビスクドール」といった人形の世界に足を踏み入れると、きっと誰もがその吸い込まれるような瞳に釘付けになります。私もその一人です。海外の通販で見つけた古いラウシャのブロウアイが詰まった箱に心躍り、ドールイベントで作家さんのブースに並び…、人生でどれだけ人形を創作してもグラスアイには困らないほど収集してしまった気がします。そして、自分でも作りたいと思いガラス教室に通いました。まだまだ人に見せるまでいきませんが、いつかきっとと思っています!
19世紀、特にフランスやドイツで隆盛を極めたビスクドールの黄金時代には、様々な技術革新が起こり、ドールの表情はより豊かになりました。この時代の人形の目を彩ったグラスアイの種類や製造方法、その魅力について初歩的なお話をご紹介します。
ビスクドールの瞳を彩ったグラスアイの種類
アンティークドールに使われるグラスアイには、主に、二つに分けられます。
ペーパーウェイトアイ (Paperweight eye)
「ペーパーウェイト」という名の通り、文鎮のような形状をしたグラスアイです。現在日本で売られているものはほぼこのタイプです。
19世紀後半、フランスの高級ビスクドールメーカー、特にジュール・スタイナー(Jumeau)やブルン(Bru)などのドールによく使われました。中心の虹彩部分に細いガラスの線や気泡を入れて、奥行きと複雑な色合いを表現しています。光を反射してキラキラと輝くその美しさは、まるで本物の目のようです。
ブロウアイ (Blown eye)
熱したガラス管に息を吹き込み、風船のように膨らませて作られる、中が空洞のグラスアイです。この「吹きガラス(blown glass)」の技法に由来し、その形状から「ホローアイ(hollow eye)」とも呼ばれます。ドイツの工房で多く製造され、中が空洞で非常に軽いため、特にスリープアイのように目の開閉機構を内蔵するドールに不可欠でした。
固定式とスリープアイ
人形にセットする方法も二つあります。
固定式
ドールのヘッドに直接、ワックスや石膏で固定されるタイプの目です。動かすことはできませんが、その分、特定の表情を完璧に表現することができます。
スリープアイ
スリープアイは、ドールを横にすると目が閉じる仕掛けを持つグラスアイです。ドールの愛らしさをさらに引き立てるため、特に子供を模したドールに多く採用されたそうです。
- 仕組 ー ロッキングアイ (Rocking eye)
ドールヘッド内部の目の裏側に重りがついており、ドールの姿勢を変えることで目が開閉する仕組みです。ドイツのメーカー、ケーテ・クルーゼ(Käthe Kruse)などが特許を取得しました。眠っているような愛らしい表情を作り出します。
グラスアイの製造技術と歴史的背景
グラスアイの製造は、非常に熟練した技術を必要とします。19世紀のグラスアイ製造は、主にガラス職人の手作業で行われていました。
フランスとドイツ、それぞれの技術
フランスのメーカーは、ペーパーウェイトアイに代表されるように、ガラスの内部に細工を施す高度な技術を誇りました。これは、ガラス工芸が盛んだったフランスの文化的背景も影響しているでしょう。一方、ドイツのメーカーは、ブロウアイに代表されるように、大量生産に適したよりシンプルな製造方法を確立し、多くのドールにグラスアイを供給しました。
ガラス工芸の歴史との密接な関係
グラスアイの製造技術は、ベネチアングラスやボヘミアングラスといったガラス工芸の技術と密接に関係しています。特にドイツのラウシャ(Lauscha)という町は、古くからガラス細工が盛んで、多くのグラスアイ職人を輩出しました。この町で作られた高品質なグラスアイは、世界中のビスクドールメーカーに輸出されました。
アンティークドールとグラスアイ、価値を見極めるポイント
アンティークドールの価値は、そのドールの状態や希少性はもちろんですが、瞳であるグラスアイの状態も重要な要素です。
- グラスアイのオリジナリティ
もし、アンティークドールを購入される時に販売当時のオリジナリティを重視されるなら、ビスクドールが製造された時代のグラスアイであるか確認してください。その時代のグラスアイの主流とは異なる色・形状のようであれば、後付けされた可能性もあります。
(19世紀のビスクドールに使われたグラスアイで最も人気があったのは、ブルー系の色でした。これは、当時のヨーロッパで「青い瞳」が理想とされていた文化的背景が影響していると言われています。) - グラスアイの状態
ひび割れ、欠け、傷がないか、また、内部のペイントや虹彩の劣化がないかを確認します。ペーパーウェイトアイの場合は、内部の気泡や模様が均一で美しいかどうかも評価のポイントになります。ブロウアイの場合は、ガラス管から切り離された「しっぽ(Tail)」が折れずに残っているかどうかも価値を見極める上で重要です。
まとめ
ビスクドールのグラスアイは、単なる飾りではなく、ドールに魂を宿らせる芸術品です。19世紀のフランスとドイツで培われたガラス工芸の技術が、ドールの表情を豊かにし、私たちを魅了してきました。アンティークドールを手に取る機会があれば、ぜひその瞳をじっくりと観察してみてください。そこに隠された職人の技と、時代を超えた物語を感じられるはずです。
【豆知識】
- ブロウアイと日本
ブロウアイは日本のドールにも多く使われてきました。特に、戦前にドイツから輸入されたブロウアイは、その軽さとリアルな表情から、日本の市松人形やサクラビスクなどにも盛んに使用されました。時代を超えて、ドイツの技術が日本のドール文化にも深く根付いていたことがわかります。
